HACCPで義務化されたことは
1.HACCP計画を作成する。
2.毎日欠かさず実施する。
3.実施を記録に残して1年間以上保管する。
これらが食品衛生法により義務付けられました。
ここを見ている方は、多分ご自身ででHACCP計画を作成しようと考えている方ではないでしょうか?
そんな方にHACCPを実施する上での注意点からまずご紹介します。
小さなお店のHACCP注意点
・お店の食材や容器・器材で事故が起こる可能性がある点をもれなくメニュー別に洗い出して提供スタイルで分類しましょう。
・HACCPは毎日欠かさずに必ず実施し継続しましょう。
・毎日数枚必要となる記録用紙は、切らさないようにプリントアウトしておきましょう。
・A4用紙の保管は日付がバラバラにならないようにファイルでしっかり保存・管理しましょう。
全て手間はかかりますが真面目に丁寧に実施する事でしっかりと食中毒事故を防ぐことができるHACCPを実施できます。
ご自身で実施される場合は
公益社団法人日本食品衛生協会が作成した
を利用されると思います。お持ちでない方はまずは上記↑をクリック・プリントアウトしてご準備ください。
それでは今から、小さなお店のHACCPを 1計画作成 2実施 3保管の順にしっかりと説明しますので頑張ってください。
HACCP計画の作成の注意は?
それぞれの施設ごとに作成する必要があるHACCP計画は2種類です。
1.一般衛生管理計画
2.重要管理計画
・まずは一般衛生管理計画について
その名の通り一般的にどこの施設でもほぼ共通する内容の衛生管理計画です。
よほど特殊なケースでなければ手引書の内容で十分対応できます。
手引書をお店に合わせて手直しして頂ければOKです!
・次に重要管理計画について
こちらはお店のメニューによって全く異なります。保健所のHACCP説明会では簡単そうに言いますが、あなたがもしもお店を大切に守らなければならない立場にある人ならば、この計画の作成を進めてゆけば行くほど不安を感じるのではないでしょうか。特にお店を運営するのがご自身ではない経営者やマネージャーなどの地位の方にとっては、これをしっかり作成していないと安心して店を任せることができないと思います。これから安心できる計画の作成方法について説明しますので是非しっかりした計画の作成に役立ててください。
重要管理計画の作成方法
重要管理計画の作成においては、先ほどの手引書は参考程度に考えてください。それぞれの事業所によって全く内容が違うものになります。
・健康被害を引き起こす危害要因の菌・ウイルス・虫・毒・異物の対策を徹底的に考える事が基本です。
・目に見えない菌・ウイルスそれぞれの存在場所・増え方・好む環境・苦手な環境・苦手な温度を調べます。
・その菌を、つけない・増やさない・やっつけるを基本に対策を考えます。
お客様・利用者様が口に入れるもの全てを計画に取り入れないと食中毒の危険性を排除できません。
*数年前に給食でノロウイルス食中毒事故がありましたがその原因が「刻みのり」であったように薬味にまで気を配る必要があります。(ただこのケースは調理者の立場では対策不可能な事故だったといえますが。)。
1) メニューを一品ずつ使用食材と調理方法・保存方法・提供温度について考えながら下記の5つのどれに当てはまるか分類する。
A. 元々加熱していないものを冷たいまま提供するもの。
B−1. 加熱するものをすぐに熱いまま提供するもの。
B−2. 加熱したものを高温保管した後に熱いまま提供するもの。
C−1. 加熱後に冷却したものを再加熱して提供するもの。
C−2. 加熱後冷却し、冷たいまま提供するもの。
●例えば、カツカレーに温泉玉子と福神漬けがのっているメニューなら
カレーは一般的にC-1、ライスはB-2、カツはB-1、温泉玉子はC-2(殺菌効果は疑問で既製品ならAに該当します。)、福神漬けはAとなります。
このように、使用食材・調理方法・保存方法・提供温度で口に入る物全てを分類します。
2) 口に入る全てのの食品を調理工程でA〜C-2までの5グループに分類します。
●例えば、上記のカツカレーでは、
Aは冷却温度をしっかり管理して提供時には目視・臭いで判断する。
B−1なら加熱時間をしっかり守り必ずカットして中心部も目視確認した後に提供する。
B−2なら保温温度を確認する。提供時は目視と臭いで判断する。
C−1では調理後速やかに冷却して保管し、再加熱時に気泡と臭いで判断する。
C−2では加熱後速やかに冷却し温度管理。冷蔵庫から出した後は速やかに提供する。
3) 次に調理工程で分類した5つのグループ内でチェックする方法別に分類します。
●例えば、B-1にカツ、唐揚げ、野菜炒め、焼きさんまが該当した場合
同じB-1でもカツや唐揚げはカットして中身をチェックできますがその他は無理です。
カツ、唐揚げのチェック方法は カットして中身を目視・揚げ時間・油の温度・臭い・目視
野菜炒めチェックは肉と野菜の火の通り方を目視・臭い・味見
焼きさんまは火加減・サイズ・焼き上がり方を目視・臭い
などのチェック方法による分類が考えられます。
* ただし、これもスチコン・グリル・焼台・IHなどで全く違ってきます。
お店の設備に合わせた計画が必要です。
重要管理計画の作成はこのように提供するメニューや調理方法によって全く別の内容になります。
* この重要管理計画作成時の考え方のヒント
例えば、豚カツをしっかり中心まで熱を通す必要がある事は皆さんわかると思います。ではカレールウの保温温度を確認する・加熱したものを速やかに冷却するなどを計画のチェックに取り入れる必要はどこにあるのでしょうか。
菌にはそれぞれ繁殖できる温度帯があります。例えばカレーでよく食中毒を引き起こす原因となるウェルシュ菌は15℃から55℃の間で増殖、増殖スピードが速い、酸素が苦手、高温でも死なないなどの特徴をもちます。カレーのような粘度の高い煮込み料理は調理過程で酸素を放出します。熱に強く酸素が苦手なウェルシュ菌にとっては快適な環境になります。ウェルシュ菌は元々自然界の土壌に生息しています。ジャガイモや玉ねぎに付いた土の中に潜んでお店にやってきます。またウェルシュ菌は芽胞形成菌と呼ばれる菌で100度の加熱でも死滅しません。HACCP計画を立てる場合、殺せないなら増やさない事を徹底する必要があります。増やさないためには増えることができる環境に置かない事が最重要になり、速やかに冷却するという過程が必要になるのです。
私が作成する場合はこのように菌それぞれの存在状態、好む温度、好む環境と苦手な環境、増殖スピードなどを考えて管理計画に盛り込む事で事故発生の可能性をとことんつぶします。皆様が作成される場合もできる限りそれぞれの菌の特徴を調べてHACCP計画に取り入れることでしっかりお店を守ることができるHACCP計画が完成します。
HACCPの精度が低ければ食中毒予防には結局役に立ちません。できることならスタッフ全員が学び、情報を共有することでHACCP義務化を最悪の食中毒事故発生の予防につなげてください。
この重要管理計画書の提出義務を飲食店経営のリスク管理の大きなチャンスととらえてしっかり作成してください。
HACCPの実施について 毎日やるの?
作成したHACCP計画に基づき毎日確実に実施して行きます。
・冷蔵庫の温度のチェック、従業員の健康状態のチェックなど計画に取り入れたことを毎営業日1回以上実施する義務があります。
・実施した内容は保健所でもらうことができるA4の用紙でいいのでしっかり記入しましょう。
・用紙がなくなると実施がおろそかになるので、用紙切れがないようにコピーもしくはプリントアウトをしておきましょう。
・スタッフ全員が記録できるようにしましょう。
*HACCPは言い換えれば微生物の管理です。目に見えないものが相手だから全員でやらなければ意味がありません。一人でも理解していないスタッフがいれば、知らないうちに菌を付けたり増やしたりして他のスタッフの行動が無意味になってしまいます。知識を持ってもらう事・情報をスタッフ全員で共有する事などの意味から毎日の実施・記録は全てのスタッフができることが好ましいです。
HACCPの管理・保存について。 なぜ管理保存が必要なの?
実施したHACCPの記録は1年以上保管して万が一の際にすぐに提供できる状態に置く必要があります。
毎日実施して記録するHACCPは1年でかなりのボリュームになります。ファイルなどでしっかり整理してすぐに取り出せるようにしましょう。
何のために保管しておくのでしょうか?
保健所の業務は人員に比してとても多く、それぞれの施設ごとのHACCP実施状況を把握できる状態ではありません。1年に一度、立ち入り検査の予定はありますが実際全ての店舗は不可能です。HACCPの実施記録を提供する機会は、通常の立ち入り検査の時又は通報による立ち入り検査の時だけになることが予想されます。やっていて当然という信頼の上にHACCPは成立しているという事になります。猶予期間が過ぎて罰則が適用されるようになった場合には、食中毒の通報→立ち入り検査でHACCPチェック→原因解明という流れの中で、HACCPを実施していない事業者となると食中毒事故に対する責任が重いと判断されかねません。普段はあまり必要ではないのですが突然の事故の際に重要な判断材料になるものなのです。大切なお店を守るためにHACCPは必ず実施し記録を保管しておきましょう。
まとめ
・HACCPは全ての飲食関連事業者の義務。
・重要管理計画はみんな違う内容になる。
・毎日実施する。
・記録用紙は1年以上保管する。
・通報された時、急に重要な書類になる。
・従業員の衛生意識が上がる。
・スタッフ全員が知っていないと意味がない。
・用紙のストックが沢山必要。